ここ数年、新聞やテレビで「原油が下がった」という報道をよく目にします。「低迷する原油価格」とか「原油価格は下げ止まり」などと報じられ、もはや「原油は昔に比べてずいぶん安い」のが常識となってきました。
そのおかげでガソリンや灯油などの燃料製品や、電気や都市ガスなどの公共料金は、この原油安のトレンドを反映してとても安くなりました。
しかしプロパンガス料金だけは、この空前ともいえる原油安の恩恵を受けず、ほとんど値下げられず高いままという事実をご存じでしょうか。 当協会が調査したところ、実はこんな衝撃のデータが判明しています。
なぜプロパンガス料金は、原油価格の下落に連動して単価が下がらないのでしょうか?そのナゾを徹底検証してみました。
下のグラフをご覧ください。
サウジアラムコCP価格というのは、プロパンガスの輸入価格のことですが、それが2014年以降からずっと下がり続けているのがわかります。
ためしに2014年と2016年の1トン当たりのプロパンガスの平均輸入価格を割り出してみると、下の左グラフのようになります。
同じように、2014年と2016年の10m3当たりのプロパンガスの平均販売価格を調べてみると、下の右グラフのような結果になりました。
両者を比べてみると一目瞭然ですが、プロパンガスの輸入価格は冒頭にも書いたように、3年前に比べて59%と半額以下に下がっているのに、プロパンガスの販売価格は、わずか5.1%、たったの数パーセントしか安くなっていないのです。
当協会の「ガス料金自動診断」で自宅のプロパンガス料金が高いかどうか確認し、もし高いようならガス会社の変更を検討することをお奨めします。
プロパンガスの輸入価格がこれほどまでに下がり続けているのは、もとはといえば、2014年以降から始まった世界的な原油価格の下落に端を発します。
実際この時は、2008年9月に起こった世界的な金融恐慌であるリーマンショック時の原油急落と同じくらいの驚きをもって世間に受け入れられました。
この記録的な原油安の背景には、産油国の原油増産が続いたことに加えて、米国がシェールオイルの生産を急拡大したことが主な原因だと言われています。
図1:国際原油価格(WTI)の推移(1)
たとえば当時、街のガソリンスタンドでは、ガソリンや灯油の販売価格を1円でも安く提供しようと熾烈な価格競争がヒートアップしたことは記憶に新しいことと思います。
また、家計における光熱費のうち電気料金やガス料金もこの原油価格の下落を反映して料金が下がるかもしれないと、大きな期待が寄せられました。
しかし実際のところ、販売価格が確実に下がったのは、ガソリンや灯油などの燃料製品と、電気や都市ガスなどの公共料金だけです。
同じガスでもプロパンガスの料金は、原油価格に連動して単価が安くなるといった「原油価格の低下メリット」を感じることはほとんどありませんでした。
図2:過去5年間のレギュラーガソリン価格(2)
図3:東京都の都市ガス推移(3)
このことは、プロパンガスをお使いのご家庭にとってはまったくもって受け入れ難い悲劇ではないでしょうか。
ただでさえ「プロパンガスは都市ガスより高い!」というイメージがあるのに、記録的な原油安という絶好の節約チャンスでもガス代は下がらないとなると、常日頃からどうにかしてプロパンガス代を節約できないものかと、頭を痛めている方にとっては深刻な問題です。
しかしそれ以上に問題なのは、プロパンガスにはこんな理不尽な実態があるということを全く知らない一般消費者世帯があまりに多いということです。
もしあなたがプロパンガス料金を劇的に節約したいなら、まずはこのようなプロパンガス業界の実情を徹底的に理解することから始めなければなりません。
原油が下がってもプロパンガス料金が下がらない原因は、次にあげるような意外と知られていない業界特有の3つの理由があるのです。
「原料費調整制度」という言葉をご存じでしょうか。例えば電力会社や都市ガス会社は、輸入した原油や天然ガスの価格をもとに料金を決定する原料費調整制度というルールを採用しています。
例えば2016年の日経新聞の見出しをざっと検索しただけでも、
○電気・ガス料金、6月全社値下げ 燃料価格下落で(2016/4/28付)
○7月の電力・ガス、大手全社値下げ 原燃料の輸入価格下落(2016/5/28付)
○8月電気・ガス料金、値下げ相次ぐ 原燃料安で(2016/6/30付)
というような記事を年に何度も見かけます。これはどういうことかというと、電力会社や都市ガス会社は、原燃料価格の変動に合わせて頻繁に販売価格を改定することが公然のルールとして世間に認知されているということです。
消費者にとっては理想的なルールですが、驚いたことにプロパンガス業界にはこの原料費調整制度がほとんど浸透していません。
新聞やテレビで「原油が下がった!」とどれほど叫ばれても、原価に連動する原料費調整制度を採用していないプロパンガス会社と契約している限り、あなたのプロパンガス料金は劇的に下がることはないでしょう。
けれども安心してください。原料費調整制度を採用していないプロパンガス会社はまったくゼロというわけではありません。ほんのわずかながら、原油価格の変動に機敏に連動した単価を設定するプロパンガス会社もきちんと存在します。ただしそれは全体のほんの1~2%です。
とても希少ですが、消費者のために改善しようと孤軍奮闘しているチャレンジングなガス会社も存在していることは頼もしいことです。
ちなみにプロパンガス料金消費者協会が契約している会員ガス会社115社(2019年10月現在)のうち、原料費調整制度を取り入れているガス会社は今のところ10社あります。
プロパンガス会社を賢く選べば、あなたの家のプロパンガス料金も原油安のトレンドを反映して安くなるということです。
しかしなぜ、多くのプロパンガス会社は原料費調整制度を採用していないのでしょうか。その原因は次の理由❷で詳しく説明します。
今さらですが、プロパンガスは公共料金だと思いますか?
案外知らない人が多いのですが、プロパンガスは公共料金ではなく自由料金です。電気(2016年4月1日から自由料金)や都市ガス(2017年4月1日から自由料金)が公共料金なのでプロパンガスもてっきり公共料金だと勘違いしている方が多いのですが、プロパンガスは昔からずっと自由料金です。
このことは、プロパンガスの販売価格を理解するうえで最も重要なポイントです。
例えば電気(2016年4月1日から自由料金)や都市ガス(2017年4月1日から自由料金)は公共料金なので、原料費調整制度のようなクリアなルールのもと、消費者との健全なコンセンサスを得た上で販売価格が決められています。
けれども自由料金制であるプロパンガスは、各プロパンガス会社がそれぞれ独自の基準で自由に販売価格を決定しているので、原価が下がったからといってすべてのガス会社が一律に単価を下げるということはありません。
プロパンガスは公共料金ではないので、原料費調整制度のような法令を遵守する義務はなく、各ガス会社は自由に販売価格を設定できる権限を持っているからです。
かくしてプロパンガス料金は、契約しているプロパンガス会社によって単価はバラバラ、各家庭が支払う毎月のプロパンガス料金もバラバラという、非常に不透明で不健全極まりない価格帯が横行することになるのです。
ちなみに、電力会社や都市ガス会社は原料費調整制度を採用しているのに対し、プロパンガス会社が採用しているのは「固定料金制」といわれるものです。
この固定料金制は、プロパンガス業界で長く採用されてきた料金システムですが、これを隠れミノにして悪行を働くアンモラルな業者は後を絶ちません。消費者との大きなトラブルに発展することもあるので、重要な要因としてよく理解しておく必要があります。
固定料金制を採用するガス会社では、1m3当たりの販売価格(単価)を480円とか680円などとあらかじめ決めておき、原価が変動すればそこに為替レートを勘案してはじめて価格を設定するのが原則です。
ただしこれはあくまでも原則なので、プロパンガス会社が従う義務はありません。またこれに従わなかったからといってプロパンガス会社に罰則が課されることもありません。
結果として、
というような、儲け重視のアンモラルな業者が横行することになります。
しかしこれはある程度仕方のないことかもしれません。どんな会社も売上が減ることを喜ぶ会社はありません。
原価が上がればそれまでの儲けを確保するために公然と値上げを決行します。逆に原価が下がったからといって値下げをすれば、利益が減るのでそれもしません。利益が減れば会社としての売上も当然下がることになり、ひいては会社の経営が成り立たなくなるリスクが生じるので、正直なところ、値下げは避けたいと考えるのが普通だからです。
そのため何十年も同じプロパンガス会社と契約していると、価格はどうしても高水準でキープされたまま割高になってしまいます。
良心的なガス会社ですら、例えば1m3あたり50円値上げした際でも、たとえその後、原価がもとの水準に戻ったとしても実際は20~30円ぐらいしか下げない、ということはよくあることです。
将来の値上げリスクに備えてあえて値下げをしたくないからです。
冒頭にも書いたように、プロパンガスの原価は3年前と比較して60%近くも下がっているのに、プロパンガスの価格はたったの5%程度しか下がらない理由には、このようなプロパンガス業界の伝統的な因習による場合がほとんどです。
残念なことに、このような業界に真っ向から反旗を翻すには相当の労力が必要です。勇気をもって行動したところで徒労に終わるのが関の山、自分の生活は自分で防衛するしかないと考えたほうが賢明でしょう。
契約しているガス会社が法外な価格設定をしている悪徳業者かどうか、まずはしっかり見極めることが大切です。
もしあなたの家のプロパンガス料金が高く、上記で紹介したような事情が当てはまるならば、思い切ってガス会社を変更してみてはいかがでしょうか。
幸いなことに、今は昔と違ってどこのプロパンガス会社と契約するかは個人の自由です。自分自身の判断で自由に適正価格のガス会社に変更することができます。2017年4月からは電力の自由化に続いていよいよ都市ガスの自由化も始まります。
エネルギー間競争においては「消費者の納得感」が一番のポイントです。もはや黙って高値に耐えている時代ではありません。プロパンガス会社は自分で自由に、適正価格の会社に変更することができる時代なのです。
長らく高いガス料金に悩んでいるなら、ガス会社を変更するのがいちばん有効な手段です。
その際にはぜひ、私たちプロパンガス料金消費者協会にご相談ください。年間約8,000人の消費者から無料で料金相談に応じています。
結局のところ、原油や為替、あるいは電気や都市ガスの自由化など、世の中のさまざまな動向に注意を凝らし、家計の中の不公平を見抜いておのずから行動を起こすことが今も昔もいちばんの節約術といえるでしょう。
(P)